ちょっとマイナー系かもしれないRPG、1997年アスキー。 主人公は自分がプレイしていたゲームの中に吸い込まれ、ゲーム中の「勇者様」に倒されたモンスターたちのタマシイを救っていかなければならない。「勇者」に滅ぼされようとしているこの「moon」ワールドを助けるのが主人公に与えられた使命。ここに来るまで、この世界を滅ぼそうとしていた「勇者様」は自分なのにね。 簡単に云うなら、「たまには殺されるものの気持ちも考えなさい」なのだが。 映像が牧歌的であればあるほど、重い。深読みするほど、どんよりと暗い。 で。 全てのモンスターのタマシイをキャッチした。いろんな人の手助けをした。お説教もされた。たくさんのラブをもらってラブレベルは「愛の巨匠」。行動できる時間も増えた。あとは月へ行って月の女王様を助けるのだ。それでこの世界は救われるのだ。 月へ到着。「あなたの力ならばきっと扉が開けられるでしょう」女王様に云われて喜び勇んで扉を開けに行く。扉が開けばこの世界は救われるのだ。 気分はすっかり勇者様。 ……が、開かない。びくりとも動かない。 女王様の落胆が聞こえる。 そんなハズはない。私が押しているのに何故開かないんだ!愛の巨匠では足りないのか?ラブレベル30「愛のビッグバン」にならなきゃ扉は開かないのか!?それじゃあ今までのRPGとは違うっていう謳い文句はどこへ行ってしまうんだ! 動揺している間に「勇者様」が女王様たちを殺してしまう。 そんなバカな……。 GAMEOVER 真っ黒な画面。そしてお母さんの声がする。 「いつまでやってるの、早く寝なさい」 黒いテレビ画面に「コンティニュー? NO YES」の文字。 ったりめーだ、ここまで来て中断なんかできるかい!あの扉開けるまでは寝てられん! YESを選んで○ボタンを押す。 月世界に行く直前から再開される。 やっぱり「愛のビッグバン」じゃないと駄目なのかなぁ…と、残ったイベントの消化にかかる。 ラブレベルは最高値。これで文句はないハズだ。なのに。 またしても扉は開かなかった。 何がいけないのかわからないまま「コンティニュー?」の問いに「YES」と答え、moonワールドでセーブして眠りについた。 EDを迎えないままソフトをしんたろーに貸し、何週間かが過ぎた。しんたろーもどうにもクリアできず、遂に攻略本を買った。クリアできたある日、ヒントを乞うた私に彼女はこう云った。 「あのねぇ、少年は、扉を開けなきゃいけないんだよ」 わざわざ現実世界に引き戻されて「コンティニュー?」と聞かれるのに、なぜわからなかったのか。カーソルは初めから合っていたのに、なぜその意味を理解しようとしなかったのか。 「普通」のRPGに馴れすぎた余りに、いつの間にか私はこの世界の救世主になろうとしていた。「勇者を倒さなければ」そんなことを考えていたのだ。普通のRPGとは違うのに。「悪を倒すのが主人公の役目」そんな既成のRPG観に囚われて、私は自分で考えること自体を放棄してしまっていた。 ようやく気づいて、そして扉は開け放たれた。 女王様が笑ってくれた。世界が救われたのだ。 そうだ。少年は扉を開けて、自分の住んでいる世界を冒険しなければいけないんだ。 扉を開けてください。
扉を・了 04/1999