■扉を■

ちょっとマイナー系かもしれないRPG、1997年アスキー。
主人公は自分がプレイしていたゲームの中に吸い込まれ、ゲーム中の「勇者様」に倒されたモンスターたちのタマシイを救っていかなければならない。「勇者」に滅ぼされようとしているこの「moon」ワールドを助けるのが主人公に与えられた使命。ここに来るまで、この世界を滅ぼそうとしていた「勇者様」は自分なのにね。
簡単に云うなら、「たまには殺されるものの気持ちも考えなさい」なのだが。
映像が牧歌的であればあるほど、重い。深読みするほど、どんよりと暗い。

で。
全てのモンスターのタマシイをキャッチした。いろんな人の手助けをした。お説教もされた。たくさんのラブをもらってラブレベルは「愛の巨匠」。行動できる時間も増えた。あとは月へ行って月の女王様を助けるのだ。それでこの世界は救われるのだ。
月へ到着。「あなたの力ならばきっと扉が開けられるでしょう」女王様に云われて喜び勇んで扉を開けに行く。扉が開けばこの世界は救われるのだ。
気分はすっかり勇者様。
……が、開かない。びくりとも動かない。
女王様の落胆が聞こえる。
そんなハズはない。私が押しているのに何故開かないんだ!愛の巨匠では足りないのか?ラブレベル30「愛のビッグバン」にならなきゃ扉は開かないのか!?それじゃあ今までのRPGとは違うっていう謳い文句はどこへ行ってしまうんだ!
動揺している間に「勇者様」が女王様たちを殺してしまう。
そんなバカな……。
GAMEOVER
真っ黒な画面。そしてお母さんの声がする。
いつまでやってるの、早く寝なさい
黒いテレビ画面に「コンティニュー? NO YES」の文字。
ったりめーだ、ここまで来て中断なんかできるかい!あの扉開けるまでは寝てられん!
YESを選んで○ボタンを押す。
月世界に行く直前から再開される。
やっぱり「愛のビッグバン」じゃないと駄目なのかなぁ…と、残ったイベントの消化にかかる。
ラブレベルは最高値。これで文句はないハズだ。なのに。
またしても扉は開かなかった。
何がいけないのかわからないまま「コンティニュー?」の問いに「YES」と答え、moonワールドでセーブして眠りについた。
EDを迎えないままソフトをしんたろーに貸し、何週間かが過ぎた。しんたろーもどうにもクリアできず、遂に攻略本を買った。クリアできたある日、ヒントを乞うた私に彼女はこう云った。
「あのねぇ、少年は、扉を開けなきゃいけないんだよ」

わざわざ現実世界に引き戻されて「コンティニュー?」と聞かれるのに、なぜわからなかったのか。カーソルは初めから合っていたのに、なぜその意味を理解しようとしなかったのか。
「普通」のRPGに馴れすぎた余りに、いつの間にか私はこの世界の救世主になろうとしていた。「勇者を倒さなければ」そんなことを考えていたのだ。普通のRPGとは違うのに。「悪を倒すのが主人公の役目」そんな既成のRPG観に囚われて、私は自分で考えること自体を放棄してしまっていた。

ようやく気づいて、そして扉は開け放たれた。
女王様が笑ってくれた。世界が救われたのだ。
そうだ。少年は扉を開けて、自分の住んでいる世界を冒険しなければいけないんだ。

扉を開けてください。

扉を・了 04/1999

Tips

勇者様:他人様の家に勝手にあがりこんで部屋を荒らしていくわ、そこら中でモンスターを殺しまくるわ……。まさに、普段の自分の姿。

いつまでやってるの、早く寝なさい:実家にいる間は常に母から云われていた科白だが、実家を離れた今となっては最早誰にも止められない。50時間連続プレイなんてことも、しょっちゅうではないが皆無でも無い。

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